行政書士試験 直前期(8月〜本試験)の問題演習戦略——過去問・予想問題集・模試の使い分け
直前期に「何を解くか」を間違えると、勉強量と結果が噛み合わない状態になる。8月以降は時間の密度が変わる。闇雲に問題を解き続けるより、過去問・予想問題集・模試のそれぞれに役割を持たせて使い分けるほうが、残り期間の伸びしろが大きい。この記事では3種類の問題演習リソースの使いどころと、8月から本試験直前までの具体的なタイムラインを整理する。
直前期の3つの問題演習リソース——それぞれの役割の違い
直前期に使う問題演習の材料は大きく3つに分けられる。過去問(肢別・年度別)、市販予想問題集、模試だ。これらをごちゃ混ぜに使うと何周したか分からなくなるし、直前期特有の「問題集難民」状態に陥る。それぞれの役割を先に確認しておく。
過去問——肢別と年度別は目的が違う
肢別過去問集は、本試験の選択肢をバラして論点別に並べ直したものだ。「民法の意思表示」「行政法の処分性」という具合に、同じテーマの問題が連続して並ぶ。論点を体系的に潰すには向いているが、本番の3時間・5肢択一という形式とは別物だ。8月以降も論点の抜けを確認するのに使えるが、「解いた問題数を積み上げる」目的には向かない。
年度別過去問集は、「令和6年本試験」「令和5年本試験」という年度ごとに問題が並ぶ。本番と同じ問題の順番・構成・難易度の混在で解くことができる。行政書士試験は3時間・300点満点、法令5肢択一46問・多肢選択3問・記述3問・基礎知識14問という構成だ。この順番で3時間かけて解く感覚は、肢別を何周しても身につかない。直前期に年度別形式を入れる理由はそこにある。
2026年度版で「純粋な年度別形式」として使えるのは実質的にLECウォーク問(過去10年分収録)だ。伊藤塾『うかる!総合問題集』やTAC『合格革命基本問題集』は過去問とオリジナル問題の混在型・論点別設計なので、年度別通し演習の代替にはならない。この区別はきちんとしておいたほうがいい。
市販予想問題集——論点補強と弱点確認の道具
『うかる!行政書士 総合問題集』(伊藤塾)や『合格革命 基本問題集』(TAC)は、過去問に出ていない論点や近年の法改正を踏まえたオリジナル問題を含んでいる。年度別通し演習には使えないが、「肢別過去問集だけでは拾えない論点の確認」という用途で機能する。
注意点がある。予想問題集の難易度は全体的に高めで、過去問を何周もこなした状態でも点数が取れないケースは珍しくない。「難しい=自分の実力が足りない」と直結させると直前期に余計なプレッシャーがかかる。あくまで「こういう切り口で問われることもある」という視点で使うのが正しい位置づけだ。
模試——使うタイミングが成果を決める
LEC・伊藤塾・TACはそれぞれ公開模試を実施している。伊藤塾は計4回、LECは7回、TACは3回という規模感だ(2026年度は各校の公式サイトで日程要確認)。模試は「受けること」より「使い方」が重要で、過去問を最低3周終えた状態で受けるのが前提条件になる。まだ論点が固まっていない段階で受けると、傷の確認ではなく傷の積み増しになりやすい。
模試は偏差値・順位の確認より「本番形式で3時間解ける状態か」という感覚チェックとして使う。採点結果よりも解き終わったときの体の感覚——「集中が最後まで続いたか」「時間配分で迷ったか」——を言語化することのほうが実になる。
具体的な使い分けタイムライン——8月から本試験前日まで
11月第2週の本試験を基準に逆算する。
8〜9月:肢別過去問の3周目で論点の抜けを潰す
この時期はまだ「論点固め」が主軸だ。肢別過去問集の3周目を回しながら、間違えた問題の論点を基本テキストに戻って確認する。新しい問題集に手を出すより、ここで使っている肢別1冊を徹底的に仕上げることを優先する。
市販予想問題集(うかる!総合問題集・合格革命基本問題集など)を使うとしたら、肢別で繰り返し間違える論点を別の切り口で確認するために使う。「肢別でも間違える→予想問題集でも同じ論点を解いてみる」という補完的な使い方だ。毎日解く問題集として主軸に置かない。
8月末〜9月に公開模試を1回受けておくと、自分の「現在地」が測れる。ただしこの時期の模試の点数が低くても気にしすぎない。模試の点数が低くても本試験で合格する人は毎年一定数いる。大事なのは「どこで詰まったか」の情報を次の学習に活かすことだ。
10月:年度別形式で時間配分を体に入れる
10月から年度別過去問集を本格的に回す。週に1年度分を目安に、時間を計って通し解きする。最初の1〜2年度は制限なしで「何分かかるか」を把握するところから始め、それ以降は180分制限を課す。
解いた後の振り返りは「科目ごとの正答率」と「どの問題で詰まったか」の2点に絞る。行政書士試験の時間配分は人によって違うが、「行政法・民法→基礎知識→記述」という順序が一般的に機能しやすい。自分なりの「問題の取捨選択ルール」は、年度別を繰り返すことでしか確立できない。
年度別で間違えた論点は肢別に戻って確認する。「年度別で間違えた→肢別で潰す→次の年度で確認」という往復が10月の基本サイクルになる。

直前2週間:予想問題集か模試で本試験形式の最終調整
11月に入ったら新しい論点のインプットは基本的に打ち切る。この段階でやることは「解き慣れた問題を安定して取り切る感覚を確認すること」だ。
直前2週間に模試を1回入れるのは有効だ。ただし模試の結果に振り回されないことが条件になる。偏差値や合否判定に引きずられると、直前期に不必要な論点を掘り返す行動につながる。模試はあくまで「3時間通して解ける状態か」の最終確認と割り切る。
市販予想問題集を直前2週間に使うとしたら、1〜2回分の模試形式の問題を時間を計って解く程度に留める。問題集を最初から最後まで解き直す時間も必要性も、この時期にはない。
記述式の最終確認もこの時期に集中させる。40字記述の頻出テーマ——行政事件訴訟法(取消訴訟の要件・効果)、行政手続法(聴聞・弁明)、民法(契約の基本的効果・担保物権)——を声に出して文章化する練習を毎日続ける。書けない論点を新たに仕入れるより、書けるはずのものを確実に書けるようにする方向に力を使う。
「過去問だけで足りる」論争——データで考える
「行政書士試験は過去問だけで合格できる」という意見と「過去問だけでは足りない」という意見が毎年SNSで衝突する。どちらが正しいか、という問いの立て方が適切ではない。条件次第で答えが変わるからだ。
行政書士試験の合格点は300点満点の60%、180点だ。科目別の足切りがあり、法令科目は122点以上、基礎知識は24点以上(6問以上正答)が必要になる。過去問の出題傾向を見ると、法令科目の択一部分は繰り返し出てくる判例・条文が多く、過去問を徹底的に仕上げれば得点の骨格は作れる。
一方、近年の出題は「条文の知識だけでは解けない事例問題」の比率が上がっている。特に民法の記述式と行政法の事例問題は、条文の暗記より「当てはめの訓練」が必要だ。このカバーに過去問だけでは限界がある場面が出てくる。
現実的な結論は「過去問が主軸、予想問題集は補完」だ。過去問3〜5周で論点の骨格を作り、抜けている部分を予想問題集で補う。模試は自分の仕上がり確認として1〜2回使う。この3段構えが最も無駄がない。
「予想問題集で点数が取れないから実力がない」という思い込みも修正しておく。予想問題集の難易度は本試験より高めに設定されていることが多い。点数が取れなくても、「どういう切り口で問われたか」を確認して過去問に戻る使い方で十分機能する。
やってはいけないNGパターン3つ
① 直前期に新しいテキストや問題集に手を出す
「この問題集のほうが解説が詳しいかも」「別の予備校の教材も使ってみよう」という行動は直前期に特に起きやすい。これは不安の解消行動であって、得点には直結しない。直前期に新しい教材を1冊積み上げても、使い込む時間がないため「読んだだけ」になる可能性が高い。手を動かした総量ではなく、使い込んだ深度が得点を作る。
判断基準は「この問題集を最低3周できる時間があるか」だ。残り3ヶ月を切ったタイミングで新たな問題集を買う判断は、基本的にしないほうがいい。
② 解いた量だけ追って正答率を見ない
「今日は30問解いた」「今週は3年度分解いた」という量の記録だけでは、何が起きているかわからない。直前期の演習で見るべきは「科目ごとの正答率」と「間違えた問題の論点」だ。
行政法で安定して8割取れているなら、直前期に行政法の時間を増やす必要はない。民法の事例問題で毎回詰まるなら、そこに時間を集中させる。正答率を科目別に把握しないと、得意科目に時間をかけすぎて苦手科目を放置するという時間の無駄遣いが起きる。
③ 模試の偏差値・合否判定に振り回される
模試でD判定が出ても本試験で合格した人は毎年いる。逆に模試でA判定でも落ちることはある。模試の母集団は本試験の母集団と構成が違うし、予備校模試の難易度は本試験より高めに設定されていることが多い。
模試の結果を受けて「もっと難しい問題を解かないと」という方向に動くと、本試験で繰り返し出てくる基本論点の確認が疎かになる。模試は使い方を間違えると学習効率を下げる道具にもなる。「この模試でどの論点が出たか」を確認して過去問・肢別に戻る、という使い方が正しい。
FAQ——直前期の演習でよくある問い
Q. 年度別過去問集と模試、どちらを先に使うべきか?
年度別過去問集を先に仕上げてから模試を使うのが基本的な順番だ。本試験に最も近い問題は過去の本試験問題だ。模試(予想問題)は本試験の予想ではあるが、出題者が違う以上、本物の過去問より再現性が高い保証はない。過去問を3〜5年度分仕上げた後に模試を「腕試し」として使うのが最も無駄がない。
Q. 通信講座(アガルート・フォーサイト等)の答練はどう位置づければいいか?
通信講座を使っている場合、答練・模試はカリキュラムに組み込まれているため、そのスケジュールを基軸にする。市販の年度別過去問集はカリキュラムの合間に「本番形式の感覚を作る」補完として使うのが現実的だ。答練の前に年度別を1〜2年度解いておくと、答練での時間配分が安定しやすい。
Q. 予想問題集は必ず買う必要があるか?
必須ではない。過去問(肢別+年度別)をしっかり仕上げれば合格点に届く人は毎年いる。予想問題集が有効に機能するのは「過去問で論点を固めた後、抜けている論点を確認したい」という段階だ。過去問が3周に届いていない時期に予想問題集を買っても、回しきれずに積み本になりやすい。まず過去問を仕上げてから判断するのでいい。
Q. 基礎知識(旧一般知識)の対策はいつから集中させるか?
基礎知識は足切り(6問以上正答)が必須のため、軽視できない。ただし法令科目に比べて勉強時間を増やしても得点の伸びしろが読みにくいジャンルでもある。直前期の配分としては、10月以降に「基礎知識の年度別演習での正答率」を科目ごとに確認し、文章理解・情報通信・政治経済の苦手ジャンルに絞って対策する程度が現実的だ。文章理解は問題数をこなすより「根拠を持って選ぶ」練習を積むほうが安定する。
まとめ——直前期の問題演習は「深度」で決まる
直前期(8月〜本試験)の問題演習でやることは、実は単純だ。8〜9月は肢別過去問の3周目で論点を潰し、10月は年度別過去問で時間配分を体に入れ、直前2週間は解き慣れた問題を安定して取り切ることに集中する。模試は1〜2回、腕試しとして使う。新しい問題集は3周できない時期には買わない。
「もっといい問題集があるのでは」という不安は直前期に特に強くなる。その不安を教材選びで解消しようとすると問題集難民になる。解き慣れた1冊を深く仕上げることが、最終的に得点になる。

※本記事の情報は2026年5月時点のものです。模試の日程・価格は各予備校の公式サイトで最新情報をご確認ください。